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【コラム#1】理想の裏にある人間臭い試行錯誤。いまオランダ教育が全力で守ろうとしているもの

6月3日
読了時間: 5分

更新日:7月15日

みなさんは「オランダの教育」と聞くと、どんなイメージを持ちますか?


「子どもの幸福度世界一」「宿題が少なく、のびのびと自由な教育」といったポジティブな印象を持つ方が多いかもしれません。実際に、教育移住先として絶大な人気を誇るのも頷けます。しかし、今、オランダの教育現場は、ある「大きな課題」と真剣に向き合っています。それは、学校の「安全」をどう守るか、という問題です。


最近の現地のニュース(NPO Startの報道など)を見ていると、教員への暴言や校内での喧嘩、さらには刃物が絡むようなトラブルの相談が増加しています。少し前には、地域の若者グループの激しい抗争のせいで、生徒の安全が守れないとして、5つの学校が「1日一斉に閉鎖」になるという異例の事件も起きました。


こうした事態に歯止めをかけるべく、国(下院)では『自由で安全な教育法案』という、学校の安全管理を厳しく義務付ける法律の話し合いが進められています。


「ルールで管理したい国」と「目の前の子どもを見たい現場」


この法律、一見するとすごく正論です。「事件が起きたら、ちゃんと記録して検査機関に報告しなさい」「安全を守る専門のコーディネーターを置きなさい」という風に、国が基準を明確にしてイジメや暴力を防ごうとしています。しかし、この対策に対して、現場の先生たちからは悲痛な本音が漏れています。


ズトハフェンという街にある学校で、安全管理を担当しているヤンセン先生は、カメラの前でこう語っていました。


「記録をつけるのは、正直言ってめちゃくちゃ厄介です。だって、私たちがまったく望んでいない『大量の書類仕事』がまた増えるわけですから。大切なのは、私たちが生徒たちの中に身を置いて、寄り添い続けること。デスクの後ろに座ってパソコンに向き合うことじゃないんです」

オランダの教育現場の実情


私がオランダの教育について考えるとき、やはり現場の声が一番重要だと思います。実際に、オランダの学校を訪れた際に感じたことがあります。教育の現場では、先生たちが生徒とどのように向き合っているのか、そしてどのような課題に直面しているのかを知ることができました。


現場の声を聞くことの重要性


先日、私は日本からいらっしゃった会社の方々と一緒に、オランダのイエナプラン小学校などの学校を実際に視察する機会がありました。その際、各学校の先生たちに「もし、生徒が喧嘩をしたらどう対応するの?」と質問してみました。すると、どの学校の先生からも、全く同じ答えが返ってきました。


「なんでそういう行動をしたのか、今その子が何を感じているのか、まずはじっくり話を聞くんだよ」


何をおいても、まずは話を聞くことが最優先です。この視察を通して、私はオランダが「本当に対話が一番大事」だと誰もが本気で考えている国だと感じました。


データ管理と人間らしさのバランス


ヤンセン先生が言うように「データ管理のためにデスクに縛られるくらいなら、生徒のそばに行って話を聞きたい」という反発が起きるのも、現地の先生たちの感覚を知るとすごく納得がいきます。いくら立派な報告書を積み上げても、先生たちが書類仕事に追われて、目の前の子どもの「SOS」をじっくり聴く余裕を失ってしまったら、それこそ本末転倒です。


システムできちんと管理すること(ハード)と、人間らしい寄り添い(ソフト)。この2つのバランスをどう取るか、国中で大論争が起きているのです。


私たちがオランダ教育に惹かれる、本当の理由


学校が荒れたり、先生が多忙になったりする国全体の課題は、正直、日本もオランダも同じかもしれません。どこに行っても教育の悩みは尽きないものです。しかし、決定的に違うのは、オランダは「どんなに効率が悪くても、絶対に人間(子ども)を置いてきぼりにしない」ということです。


法律やデータ、形式的な「正論」で上から管理するくらいなら、泥臭くても目の前の子どもの声をじっくり聴く。この「対話への圧倒的な覚悟」が、国から現場の先生まで、血の通った哲学として全員に染み渡っています。私たちがオランダ教育にどうしようもなく惹かれてしまうのは、完璧なシステムがあるからではありません。「どんな時も、一人の人間として真っ直ぐ向き合ってもらえる」という、泥臭くも温かい安心感がここにあるからなのだと、現地の先生たちの眼差しを見て確信しました。


オランダ教育の未来に向けて


オランダの教育は、今後どのように進化していくのでしょうか。私たちが注目すべきは、教育現場での「対話」がどのように継続されていくのかです。法律が整備されても、現場の声が無視されては意味がありません。教育は生き物です。常に変化し、適応していく必要があります。


私たちがオランダの教育に興味を持つ理由は、ただの制度やシステムではなく、そこに生きる人々の思いやりや情熱があるからです。これからも、オランダの教育の動向を注視していきたいと思います。


♠︎「NPO Start」 で放送されたニュース番組(NOSの報道番組など)が元になっています。♠︎


  1. ベーフェルウェイクとヘームスケルクの学校閉鎖

- 2023年10月、若者グループの暴力を伴う対立(ナイフの所持や襲撃の脅迫など)により、生徒の安全が確保できないとして、地域にある5つの実科・中等学校(Kennemer CollegeやFioretti Collegeの校舎など)が実際に1日臨時休校になりました。当時のオランダ国内ニュース(NOSなど)で大きく報じられました。

  1. フィオレッティ・カレッジ(Fioretti College)

- 実際にオランダに存在する中等教育学校です。インタビューに出てくるヤンセン先生(Meneer Jansen)は、校内の安全を守る実在のスタッフとして番組に登場しています。

  1. 自由で安全な教育法案(Wet vrij en veilig onderwijs)

- 2026年現在、オランダの下院(Tweede Kamer)でまさに審議・修正が行われている本物の法案です(法案番号:36777)。学校に対して安全対策の義務化(データ記録やコーディネーターの配置など)を迫る内容で、政務官(Staatssecretaris)と学校現場の間でリアルに議論が続いています。

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